根来寺発掘調査報告書に対する批判(2)
「丘陵上は大型重機による開発が昭和年間に行われていた
との地元住民による証言もあった」
(編著者和歌山県文化財センター 根来寺遺跡p28)
この調査データの公開を要求します。
東京入りにむけて笠田荘文覚井をめぐる前田正明氏との
論争をまとめていた。和歌山地方史研究の書評とあわせて
反論を、と思っていたが、どうやら載せないらしい。
文覚井論争では、聞き取り調査の精度・位置付けが争点
のひとつだった。前田氏は、和歌山井堰研究会の仲間で
長年一緒に現地調査・聞取調査もしている和歌山近世史の
キーパースンだ。志富田荘や安田島の論文など精度の高い
聞き取りに裏付けられている秀作である。だから当然、
文覚井論争の争点は、聞き取り調査の精度をめぐる学問
論争であり、文献史学の描く世界との懸隔について、
という深いものである。これを中央の研究者に振って
みたかったのだ(どうだ、和歌山文献史学の高レベル、と)。
そんな矢先に突如冷水を浴びせられた気分に成る。
冒頭の報告書の文章を見たからだ。
惣国首都根来の構造がわかる重要地点として注目
されている今回の発掘現場(一乗閣移転予定地)にて、
冒頭のようなデタラメな文章を見出した時には絶望
的な気持ちになった。文化財センターでは、笠田と
南部とふたつの荘園遺跡で私が調査指導委員会の委員
をつとめたことがある。南部では工楽善通委員長の
もとで年4回開催という異例の頻度で指導をしたと
記憶する(2001年7月発足)。その時に、徹底した
聞き取り調査を自ら(発掘調査とは2桁違う安値で)
中世史研究者を率いて実施した。この調査組織は、
その2度の経験を一切学んでいなかったことになる。
驚くべき無能と無気力といわなければならないだろう。
(さすがに「故意」とは思いたくないので=批判1
ご参照を)。私は笠田については、同成社刊の
『紀伊国かせ田荘』、南部については『南部荘遺跡
1240年の荘園景観』を出して聞き取りの成果を公刊
している(南部については、県教委と文化財センター
の発掘調査のありかたを阿部猛篇『中世の支配と
民衆』同成社刊の所収論文のなかで批判した)。
聞き取り調査の科学性とはいかなるものであるか、
身をもって2度も指導したはずだ。上の証言が、
もし発掘調査に何らかの予断を与えているのなら
(実際「残りが悪いから掘らなかった」わけだが)
その成果をきちんと示してもらいたい。指導機関の
文化遺産課には、笠田や南部の時と違って、民俗学
の専門家もたくさん居るだろうに。彼らに前面に
出て発言してもらうべきだろう。情けない限りだ。
私は、昨年現地説明会が行われた直後の時点で
研究者個人として、この調査では不十分だと8か条の
要望書を出した*。その中では、
「国史跡の隣接地であり、十分な調査検討が不可欠
であることはいうまでもありません。私たちの研究
成果報告書『中世根来の社会史』(2008)・
『中世根来の内と外』(2009)の2冊の成果を正しく
踏まえた分析をお願いいたします」と前振りした上で
「加えて瓢箪池水系と桃坂池系水系との境界域に占地
するなど荘園遺跡調査によって得られた地域調査の成果
をまったく無視して度外視している」「この遺構について
根来寺遺跡のうち都市部境界域にある防衛遺構として
きわめて特色ある国史跡の構成要素と考えている。
残存状態がよくないという評価も誤っていると考える」
と聞き取り調査を含めた荘園調査の成果に学ぶよう
強く求めたのである(県教委文化遺産課長と文化財
センター長宛)。和歌山大学海津ゼミは、梅田志保氏
(現根来寺)を中心として根来寺のある弘田荘一帯の
水利・聞き取り調査を緊急実施して成果報告していた。
30年間にわたって「根来寺坊院」を調査していた
調査主体が、こんな貧しい研究方法蓄積しかもって
いないというのは、私の感覚で言えば信じられない
ことだ。せめて先行研究に学びなさいと言ったわけで
それすらもできない調査主体ということになる。
(*このような私の危惧に回答は無くグダグダと時間
を使っているうちに、恐れていた通り、全国学会から
2発の抗議要望をうける羽目に成る。指導委員として
支えてきた和歌山県の一員としてまったく情けない。)
すでに考古学者のブログでは、この報告書を追認した
委員達を「原子力村の御用学者」と断ずる厳しい批判が
集中しているようだ。考古分野のプロの目でみれば、
報告書は、度し難いレベルのものなのだろう。
http://file.onepeace2054.blog.shinobi.jp/bef1775c.jpg
(参考過去記事)
サマーセミナー2011にむけたメッセージ 根来の成果
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-126.html
海津科研費組による根来研究の成果
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-248.html
文化財センターの良識者へあてたメッセージ 最新
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-264.html#cm
今年のサマーセミナーメッセージは書きかけで行く羽目に
なりそうだ(KASEDA文覚井論争)
との地元住民による証言もあった」
(編著者和歌山県文化財センター 根来寺遺跡p28)
この調査データの公開を要求します。
東京入りにむけて笠田荘文覚井をめぐる前田正明氏との
論争をまとめていた。和歌山地方史研究の書評とあわせて
反論を、と思っていたが、どうやら載せないらしい。
文覚井論争では、聞き取り調査の精度・位置付けが争点
のひとつだった。前田氏は、和歌山井堰研究会の仲間で
長年一緒に現地調査・聞取調査もしている和歌山近世史の
キーパースンだ。志富田荘や安田島の論文など精度の高い
聞き取りに裏付けられている秀作である。だから当然、
文覚井論争の争点は、聞き取り調査の精度をめぐる学問
論争であり、文献史学の描く世界との懸隔について、
という深いものである。これを中央の研究者に振って
みたかったのだ(どうだ、和歌山文献史学の高レベル、と)。
そんな矢先に突如冷水を浴びせられた気分に成る。
冒頭の報告書の文章を見たからだ。
惣国首都根来の構造がわかる重要地点として注目
されている今回の発掘現場(一乗閣移転予定地)にて、
冒頭のようなデタラメな文章を見出した時には絶望
的な気持ちになった。文化財センターでは、笠田と
南部とふたつの荘園遺跡で私が調査指導委員会の委員
をつとめたことがある。南部では工楽善通委員長の
もとで年4回開催という異例の頻度で指導をしたと
記憶する(2001年7月発足)。その時に、徹底した
聞き取り調査を自ら(発掘調査とは2桁違う安値で)
中世史研究者を率いて実施した。この調査組織は、
その2度の経験を一切学んでいなかったことになる。
驚くべき無能と無気力といわなければならないだろう。
(さすがに「故意」とは思いたくないので=批判1
ご参照を)。私は笠田については、同成社刊の
『紀伊国かせ田荘』、南部については『南部荘遺跡
1240年の荘園景観』を出して聞き取りの成果を公刊
している(南部については、県教委と文化財センター
の発掘調査のありかたを阿部猛篇『中世の支配と
民衆』同成社刊の所収論文のなかで批判した)。
聞き取り調査の科学性とはいかなるものであるか、
身をもって2度も指導したはずだ。上の証言が、
もし発掘調査に何らかの予断を与えているのなら
(実際「残りが悪いから掘らなかった」わけだが)
その成果をきちんと示してもらいたい。指導機関の
文化遺産課には、笠田や南部の時と違って、民俗学
の専門家もたくさん居るだろうに。彼らに前面に
出て発言してもらうべきだろう。情けない限りだ。
私は、昨年現地説明会が行われた直後の時点で
研究者個人として、この調査では不十分だと8か条の
要望書を出した*。その中では、
「国史跡の隣接地であり、十分な調査検討が不可欠
であることはいうまでもありません。私たちの研究
成果報告書『中世根来の社会史』(2008)・
『中世根来の内と外』(2009)の2冊の成果を正しく
踏まえた分析をお願いいたします」と前振りした上で
「加えて瓢箪池水系と桃坂池系水系との境界域に占地
するなど荘園遺跡調査によって得られた地域調査の成果
をまったく無視して度外視している」「この遺構について
根来寺遺跡のうち都市部境界域にある防衛遺構として
きわめて特色ある国史跡の構成要素と考えている。
残存状態がよくないという評価も誤っていると考える」
と聞き取り調査を含めた荘園調査の成果に学ぶよう
強く求めたのである(県教委文化遺産課長と文化財
センター長宛)。和歌山大学海津ゼミは、梅田志保氏
(現根来寺)を中心として根来寺のある弘田荘一帯の
水利・聞き取り調査を緊急実施して成果報告していた。
30年間にわたって「根来寺坊院」を調査していた
調査主体が、こんな貧しい研究方法蓄積しかもって
いないというのは、私の感覚で言えば信じられない
ことだ。せめて先行研究に学びなさいと言ったわけで
それすらもできない調査主体ということになる。
(*このような私の危惧に回答は無くグダグダと時間
を使っているうちに、恐れていた通り、全国学会から
2発の抗議要望をうける羽目に成る。指導委員として
支えてきた和歌山県の一員としてまったく情けない。)
すでに考古学者のブログでは、この報告書を追認した
委員達を「原子力村の御用学者」と断ずる厳しい批判が
集中しているようだ。考古分野のプロの目でみれば、
報告書は、度し難いレベルのものなのだろう。
http://file.onepeace2054.blog.shinobi.jp/bef1775c.jpg
(参考過去記事)
サマーセミナー2011にむけたメッセージ 根来の成果
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-126.html
海津科研費組による根来研究の成果
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-248.html
文化財センターの良識者へあてたメッセージ 最新
http://wakayamau.blog116.fc2.com/blog-entry-264.html#cm
今年のサマーセミナーメッセージは書きかけで行く羽目に
なりそうだ(KASEDA文覚井論争)
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